はる(8)

晩冬の夜明け近くの群青の空のどこかで烏が鳴けり

薄桃の桜並木の陰ぬけて春の日差しを再び浴びぬ

ツバメからツバメに繋ぐ大空の曲線やまず動き続ける

あき(2)

桑の木の下半分をオレンジに染めつつ沈む秋の夕陽

電線にちょいと乗りつけ、くるくると尾羽根ふるわすモズの到来

縦横に枝を巡らすクスノキの下を通って近道すなり

あき(1)

四枚の羽輝けるアキアカネ、影なき道をまっすぐに飛ぶ

夕空に肋骨みたいな雲浮かび涼しい風吹く秋の入り口

月を呑みまだらに光る夜の雲ゆっくり漂えクラゲのごとく

なつ(5)

育ちいく入道雲の瘤の上の空の青さは変わらざりけり

鮮やかな百日紅の花 目印に見知らぬ路地に迷いこみたり

水無月の満月照らす農道を影一人連れ気ままに歩く

なつ(4)

明け方に沸き立つような椋鳥の声で目覚める夏の真ん中

雨音と雨の匂いに身を委ね遠い昔を思う夕暮れ

葛の葉をかきわけ森に帰ろうと、もぞもぞ急ぐ小綬鶏の仔

なつ(3)

乱れ飛ぶ雀蹴散らし夕立が荒く告げたる夏の始まり

夕立はほどなく去って何もかも黄色に染まる日暮れを見たり

夏の夜の闇に重ねて銀色のキリギリスの音朝まで止まず

なつ(2)

楠の大樹の下に細く長く蟻の行列、動きを止めず

長雨に遭えど変わらぬ紫陽花の青い瞳に見送られている

睦まじく嗄れた声で愛を語る鴉が二羽いる電柱の上